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菅官房長官、携帯電話の料金は4割も下げられません!

他国と比較して料金が高すぎることもなく、4割値下げすると赤字になる

 菅官房長官が札幌市内で行った講演で携帯電話料金が他国と比較して高すぎるのではないか。4割程度下げる余地があるのではないかと思うと発言したニュースが話題となっています。

 利用者にとって携帯電話の利用料金が4割下がるのは非常にありがたいですが、携帯電話会社は4割の値下げに耐えられるほどの高利益率なのでしょうか。携帯各社の決算を見ると、実際のところ4割の値下げは難しそうだという現実が見えてきました。

 

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携帯料金の売上が4割減ると赤字になる

 まずは携帯電話大手3社(ドコモ・KDDI・ソフトバンク)の2018年3月期決算をみてみましょう。

※NTTドコモ、KDDIは単体の決算。ソフトバンクはソフトバンクグループの通信子会社ソフトバンクの決算

 各社の営業利益率は25%前後となっています。東証1部上場企業の営業利益率は平均10%に満たないので、利益率は他業種と比べても非常に高い水準であることが分かります。

 3社のうちNTTドコモは携帯電話料金による売上高を公表しており、2018年3月期の内訳を見ると以下のとおりとなっています。

  • 音声収入・・・9,516億円
  • パケット通信収入・・・1兆9494億円
  • モバイル通信サービス収入合計・・・2兆9,011億円

 2.9兆円の売上から4割を差し引くと1兆1,000億円の減収となり、2,000億円の赤字になる計算です。

 また、NTTドコモは端末機器販売収入と端末機器原価も公表しています。

  • 端末機器販売収入・・・7,551億円
  • 端末機器原価  ・・・8,337億円(差し引き786億円のマイナス)

 スマートフォン端末を値上げして利益を上げるような仕組みに変更したとしても上記の赤字をカバーできる水準には届きません。

 これとは別にNTTドコモが代理店に支払う手数料を含む雑費が7,100億円ありますが、業界を問わず人件費が高騰している現在、ドコモショップなどの代理店網を維持するために代理店手数料の内訳を長期契約有利に変更することはできても代理店手数料の総額を減らすのは現実的ではないと考えられます。

 

他国の携帯料金はどうなのか?

 それでは「他国と比べて携帯料金が高い」というのは事実でしょうか。例としてアメリカ・ドイツの大手携帯電話会社の料金プランを紹介します。

アメリカの場合

 アメリカ携帯電話最大手のベライゾンワイヤレスは基本料金で原則通話し放題。利用するデータ量に応じて料金が変わる料金プランを採用しています。

 データ通信量無制限プランは8,250円(75ドル)からありますが、これは混雑時に通信制限がかかるプラン。通信制限のかからない高速通信枠あるプランは22GBで9,350円(85ドル)、75GBで10,450円(95ドル)という価格設定になっています。ちなみにこの価格は契約台数が1台の場合。契約台数が増えれば増えるほど安くなり、4台目以降は4,400円(40ドル)~という価格設定です。また、家族で分け合えるシェアパックもありこちらは5GBで6,050円(55ドル)+回線あたり2,000円の基本料金となっています。

 アメリカの携帯電話会社は2015年~2016年にかけて相次いて2年縛り契約を廃止し、そのかわりに携帯端末料金は一括購入か分割払いを選択できる仕組みとなりました。分割払いの途中で解約した場合、端末料金の支払いを引き続き行う必要があります。

ドイツの場合

 ドイツに本社を置く携帯電話大手T-モバイルも基本プランは通話定額。データ通信料に応じて料金プランが変動します。

 データ通信量無制限プランはドイツ国内の通信量無制限に加え、EU圏内で23GB相当の通信枠がついて10,393円(79.95ユーロ)、6GBプランの場合は7,143円(54.95ユーロ)という価格設定です。契約は最低2年。パケット上限に到達した場合は通信速度が低下し、追加の通信枠は500MB643円~(4.95ユーロ/7日分)で購入できます。

 また、スマートフォン端末の初期費用をおさえられるかわりに月々の基本料金が上がる料金プランもあり、こちらの料金プランを選択すると基本料金に加えて月々2,600円(20ユーロ:トップスマートフォンの場合)の料金がかかります。

 

欧米と比べても高すぎるとはいえない国内携帯電話各社の料金

 国内各社のスマートフォン料金プランを見ると、データ通信量無制限プランは存在しないものの、通話無制限プランの場合50GBで10,000円、5GBで7,500円程度の価格設定となっています。欧米のデータ通信量無制限プランや5GBプランに近い通信枠のプランと比べると変わらず~数百円高い価格帯となっていますが、国内携帯電話各社は通話無制限プランに加えて1回5分までの通話が無料になるライトプランも用意しており、こちらのプランを利用すると各社とも基本料金が1,000円引きになることから欧米と比べて極端に通信料が高いわけでもなく、「他国の携帯料金と並べる」としてもここから1割引くらいが限界なのではないかと考えられます。

 

総務省もスマートフォン料金が高すぎるわけではないことを認識しているのではないか

 このような海外の状況を国ももちろん把握しています。総務省は毎年通信サービス料金の海外比較を実施しており、その資料の中でスマートフォン利用料金の日本と海外の比較も紹介されています。

出典:総務省「電気通信サービスに係る内外価格差調査」平成28年度調査結果(概要)http://www.soumu.go.jp/main_content/000493771.pdf

 

 この資料にもあるとおり、実は日本の通信料金は、通信量が5GB以下の場合だと欧米と比べても中位程度、隣の韓国よりも安い水準におさえられています。しかし、データ容量が20GBになるとドイツ(デュッセルドルフ)に次いで2位の高さとなっています。

 しかしながら、日本と比べて携帯料金が圧倒的に安いフランスの携帯最大手Orangeなどは4Gネットワークが地方部まで行き届いておらず、通信速度の遅い3G回線しか利用できない地域も多く存在しているというデメリットがあり、国内ほとんどの地域で使える日本と単純に比較するのも無理があり、この結果をもって「携帯料金を4割下げる余地がある」と結論づけるのは無理があるのではないかと思われます。

 

携帯電話会社は設備投資の負担が重く安定したキャッシュフローが必要。ソフトバンクのような海外展開も難しくなる?

 携帯電話会社の利益の裏には、ネットワーク網を維持するための設備投資など、投資額が大きくなりやすい点にも目を向ける必要があります。

 各社の年間投資額は通信事業だけで毎年5,000億円程度。単体売上の1~2割を占めています。各社設備投資額が年ごとに大きくばらつかないように調整をしていますがドコモが4Gを導入した際は年7,000億円程度の設備投資が必要となるなど、他業界と比べて営業活動によるキャッシュフローを安定的に確保する必要があります。

 また、利益率の低下は日本企業の海外展開を難しくさせる側面もあります。ソフトバンクがアメリカの携帯電話会社スプリントを買収した際の買収価格は1.8兆円。およそ3年半分の営業利益に相当します。ソフトバンクグループ子会社のスプリントが今期ソフトバンクを上回る5,500億円~6,600億円の投資を見込んでいるように、海外展開は設備投資額が増えることも意味します。各社の利益が減ることは海外企業の買収や投資による国際競争力を削ぐことにもつながりかねません。

 

価格にメスが入りうるのは通信の無制限プランだけではないか?

 以上から、日本の携帯電話キャリアの通信料金は海外と比べて必ずしも高すぎるわけではなく、携帯電話料金を4割値下げできるだけの経営体力もないことが分かります。

 海外と比較しても料金が高いと言い切れそうなのは月に20GB程度利用するユーザー向けの通信料金だけ。他国では無制限プランを用意していることから、日本の携帯電話会社ができることは20~50GBプランの通信量上限撤廃くらいなのではないかと推測できます。もし上限撤廃が実現したとしても恩恵があるのはごくわずかのヘビーユーザーのみということになりそうです。